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受賞者インタビュー

第26回日本・フランス現代美術世界展 大賞:瀬野 清
2025年8月7日(木)から17日(日)まで東京・六本木にある国立新美術館3A・3B室にて開催された「第26回日本・フランス現代美術世界展(2025)」の大賞受賞インタビューです
2025年第26回日本・フランス現代美術世界展 大賞受賞インタビュー

瀬野 清「3・11・忘れ得ぬ光景1(冬の向日葵)」油彩 91.6×66.4cm

インタビュー
この度の大賞受賞について、率直な感想をお聞かせください
とても嬉しく、感激しています。
特に今回の日本・フランス現代美術世界展では、私としてテーマを「3・11 忘れ得ぬ光景」と決めて、<エスパス・プリヴェ部門>に5点の作品を出品しました。
その中の「冬の向日葵」が大賞に選ばれたことで、私にとって記念すべき作品となったとともに、忘れられない展覧会となりました。
受賞作品「3・11・忘れ得ぬ光景1(冬の向日葵)」に関するエピソードや制作時に特に工夫された点、気をつけた点があればお聞かせください
東日本大震災のあった年2011年の11月に、私は東松島市の野蒜という所に行きました。JR野蒜駅前でバスから降りて、先ず私の目の前に現れた光景が作品「埋もれたレール」です。
それから歩いて、ちぎれた遮断機をわたってたどり着いて見た光景が作品「残像~ある小学校の体育館」です。野蒜小学校の体育館です。体育館の時計は、大震災のあった午後2時46分を少し過ぎた所で止まっていました。今も目に焼きついています。
その後、私は海の方へ歩いていきました。どれほど歩いたか、何時間歩いたかわからなくなっている時に、ふと気がつくと目の前に、向日葵が枯れたまままっすぐに立っていたのです。荒涼とした冬の空に立つ向日葵は、あの運慶・快慶・定慶の金剛力士像のように見えました。「向日葵の 仁王のごと立つ 冬の浜」と日記に書きました。
その向日葵を描いたのが大賞受賞作品「冬の向日葵」です。

エスパス・プリヴェ部門展覧風景

「3・11・忘れ得ぬ光景2(埋もれたレール)」油彩

「3・11・忘れ得ぬ光景3(残像~ある小学校の体育館)」油彩64.8×91.6cm

私は制作にとりかかる時、まず対象となるものの画像やラフスケッチ、メモ、参考とすべき過去作品などを新聞紙に貼りつけてビジョンをつくります。私はこれを「情感図」と呼んでいます。これは毎回(毎朝)制作する度に更新し、それを持って描き続けて完成に近づけていきます。
「冬の向日葵」の制作で一番苦労した点は何かと言えば、迫真性と美しさです。つまり迫真性のある美しさをいかに表現するかという点です。
私の場合、苦労と「上手くいった感」は表裏一体のもので、毎回制作の終わりは「上手くいった感」をもって終わるようにしています。しかしそうならない時や昨日上手くいったと思っていたのに、今朝見たらダメだと感じることがよくあります。悪戦苦闘しながら描いているわけです。そんな時は、「情感図」をつくりかえて、新鮮な気持ちになって描いていき、完成に近づけていきます。
今回の大賞受賞作品は油彩画ですが、油彩画に取り組むようになったきっかけは?
また、油彩画の魅力、ご自身にあっているところ、油彩画なのに敢えてやっていることなどありますか?
2009年中学校教員の退職を機に本格的に絵を描こうと思った頃は、油彩にこだわらずいろんな画材で描きました。
2013年サロン・ドトーヌに初入選した作品「Sorrow(仏題:Chagrin)」は混合技法で描き、ノエル・コレ氏*1の寸評で「類い稀な技術」と評されて、とても嬉しかったことを覚えています。
しかし、もともと私は学生の頃もっぱらキャンバスに油絵具で描いていました。そんな経験もあってか、いつかは油彩画にもどろうと思っていました。そして、瀬野清独特の「類い稀れな」油彩画を描きたいと考えていました。
その後、2017~2018年頃油彩画に移行しました。2017年「父と子」(第18回日本・フランス現代美術世界展大賞受賞)、2018年「赤い上着の女の子」(サロン・ドトーヌ入選出品作品)、2018年「洗濯物を入れる老婆」(ル・サロン入選出品作品)などが転機となった作品です。
私にとって油彩画の魅力は、何度もその上から描き加えることができる点です。私はこの魅力を利用して、過去作品を、その上から描き加えて全く別の新しい作品をつくることがしばしばあります。
油彩画なのに敢えてやっていること、それは日本・フランス現代美術世界展に2023年から毎年出品しているロング作品(最大4m丈)の制作です。これは巻絵風なので狭いアトリエでも制作できるし、鳥獣戯画巻などを想起させ、日本的な魅力のある部門だと思っています。

第26回日本・フランス現代美術世界展出品作品「3・11と子どもたち」油彩400.0×120.0cm

制作スケジュールや一日のルーティーン、絵を描くこと以外で長年続けていることがあればお聞かせください
私の現在の制作スケジュールは、ロング作品の制作と30号の制作を並行させ、組み立てています。ロング作品の制作の節目、節目に30号の制作を入れるという具合です。完成したロング作品の中から選んで、日本・フランス現代美術世界展とパリ国際サロンに出品しています。
また30号の作品もその中から、それぞれテーマを決め、日本・フランス現代美術世界展、パリ国際サロン、サロン・ドトーヌ、ル・サロンに出品しています。
一日のルーティーンは、朝4時すぎに起床。5時頃から7時頃まで制作をして、その後朝食をとって、午前中農作業をするというのが私の一日のルーティーンです。田植え期や稲刈り期の忙しい時でも、これを崩さず、続けています。
絵を描くこと以外で長年続けていることは、米作りです。農作業を通して自然を見ると見方がとても新鮮になります。身のまわりの草花や山林、動物たちも、これまでにない見方ができるようになっていることに気づきます。
私にとって作品づくりと米作りは車の両輪のようになっています。
  • ロング作品の制作風景

パリで開催される国際公募展「サロン・ドトーヌ」「ル・サロン」にもご入選されていますが、国内と海外、応募するにあたり作品制作の点で違いはありますか?
また、海外公募展に挑戦してみたいと思っている方へのアドバイスやメッセージなどお聞かせください
現在私が出品している展覧会は、国内では、日本・フランス現代美術世界展だけです。海外ではパリ国際サロンとサロン・ドトーヌ、ル・サロンです。国内と海外、制作の点での違いは、私の場合は全くありません。
私がなぜこれらの4つの展覧会に応募しつづけているかという点ですが、その一番の大きな理由は、関係している美術評論家の方々の寸評がいつもすばらしいという点にあります。
2013年と2014年のノエル・コレ氏*1の寸評、そして2009年から今日まで(16年間)パリ国際サロンに関わってこられた故ロジェ・ブイヨ氏*2、故パトリス・ド・ラ・ぺリエール氏*3、そして現在のジョセ・ティボ氏*4、どの方の寸評も鋭く的確で魅力的です。すばらしい寸評は時を経ても、色褪せることなく、私の制作に大きな力となっています。
私は今までの寸評をいつも宝のように大事にして制作に励んでいます。
JIAS会員としても「日本・フランス現代美術世界展」に長年にわたり様々な作品を展示されています。本展の見どころ、これから応募を検討されている方へのメッセージなどあればお聞かせください
私にとって日本・フランス現代美術世界展はどんな展覧会なのか以下の5点に要約しました。
第1は、2010年初入選以来、ずっと今日まで出品し続けている国内唯一の展覧会です。この展覧会への出品を通して、パリ国際サロン、サロン・ドトーヌ、ル・サロンへと広がって、今日まで来ています。
第2は、家族、兄弟姉妹、親戚とのつながりを確かめ合い絆を深める場になっています。今回の展覧会には名古屋から姉がかけつけてくれました。
第3は、友人・知人・教え子たちとの思いがけない出会いや知らせ(作品をご覧いただいての感想など)があり、それに感激するという場にもなっています。
第4は、毎年1回(8月)開催される場では、沢山の作家たちと出会い交流を深め、励まし合える場になっています。
第5は、昨年(2024年)から希望すれば、後日に寸評が届けられます。私はこの寸評にとても魅力を感じています。作品にこの寸評を添えて飾っています。
  • アトリエの風景

今後の目標や抱負、これから挑戦してみたいことなどをお聞かせください
私は現在ガン治療を受けながら、米を作り、作品を作っています。「うまず、たゆまず、無理をせず」を信条にしてこれからもがんばっていきたいと思っています。耕運機が動かせる限り米を作り、喜怒哀楽の感覚がある限り作品を作り続けていくつもりです。
あの北斎は富嶽百景のあとがきで「…八十六才にして益々進み、九十才にしてなお、その奥意を極め、一百歳にして正に神妙ならんか、百有十才にしては一点一格にして生きるがごとくならん…」と記しています。
神妙とはどんなものかわかりませんが、もし、今自分がやっていることが神妙への道につながるものであるならば、うまずたゆまず無理をせず歩みつづけて、やがて神妙の域にたどりつき、そこで神妙の境地に浸りたいものです。
故ロジェ・ブイヨ氏に2014年パリ国際サロンの寸評で「豊かさ、複雑な精神性、ヒューマニストに通じる魂の高潔さを感じる」と評していただきました。そして、ジョセ・ティボ氏は2024年パリ国際サロン「黒い向日葵」の寸評で「真のアーティストの仕業を魅せる偽りのないキャンバスである」と評されました。これらの寸評の言葉が私の心の奥まで刻み込まれています。私は「ヒューマニストに通じる魂の高潔さ」と「真のアーティスト」をめざして、歩みつづけていきたいと思っています。それが神妙につながる道だと信じています。
*1  ノエル・コレ M. Noël CORET
フランス美術評論家。サロン・ドトーヌ会長(2004年~2014年)を経て、名誉会長(2015年~現在)に就任。

*2 故ロジェ・ブイヨ †M. Roger Bouillo
フランス美術評論家。フランスにて一流美術評論家として数多くの美術書籍に評論、編集、監修を務める。新エコールドパリ浮世・絵美術家協会・パリ本部事務総長を担い、パリ国際サロンでは積極的に寸評を施し、作家の育成に尽力した。

*3 故パトリス・ド・ラ・ペリエール †M. De La Perrière Patrice
フランスの三大美術雑誌のひとつ「UNIVERS DES ARTS(ユニベール・デザール)」(1994年創刊)の共同創始者兼編集長(~2023年)。芸術勲章(2005年フランス文化省)ほか多数受勲。

*4 ジョセ・ティボ M. JOSSET Thibaud
実父であるペリエール氏の元、長年「UNIVERS DES ARTS(ユニベール・デザール)」編集主幹を務め、その後、編集長に就任(2023年~現在)。現在、パリ国際サロンの審査員も担う。
第37回パリ国際サロン2024ユニベール・デザール賞受賞時のジョセ・ティボ氏の寸評はこちら
プロフィール 瀬野 清 / SENO Kiyoshi
JIAS会員/NEPU会員/サロン・ドトーヌ会員
1949年三重県松阪市生まれ。1972年から2009年まで京都府舞鶴市で中学校美術教員を務め、退職と同時に制作活動と米作りに専念、現在に至る。

<受賞歴ほか>
2009~2011年ドローイング・デッサン・版画コンクールにて銅賞、金賞を連続受賞
2013~2025年サロン・ドトーヌ13回連続入選
2015年ベルギー・オランダ美術賞展にてパリ国際サロン賞受賞
2017年イタリア美術賞展にて準大賞受賞
2018年ル・サロン初入選~2026年までに全6回入選
2019年ル・サロン「メンション」選出 ※今後の入賞候補者としてフランス芸術家協会が奨励作家として選出
2021年スペイン美術賞展にて優秀賞受賞
2023年第2回TOKYO世界展にて優秀賞受賞
▶パリ国際サロンにて:大賞(2021)、NEPU賞(2019・22)、優秀賞(2023・25)、ユニベール・デザール賞(2024)受賞
▶日本・フランス現代美術世界展にて:サロン・ドトーヌ賞(2022)、優秀賞(2023)、大賞(2017・25)受賞
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